じもともともに

美術品と商品をつくる二つの顔を持つ人


 多治見市内から15分ほど車を走らせたところにある東山窯さん。すぐ脇には、土岐川が流れ、まわりの民家までも距離があるので、ずいぶんと山奥に来た雰囲気がします。JR中央線の線路沿いにあり、電車好きには待ち構えて写真を撮りたくなるような場所でした。

【トピックス】
🔳器づくりをはじめる
🔳青へのこだわり
🔳美術品を作る自分が商品をつくる意味のこと
🔳気分転換と陶芸教室
🔳これからの伝統工芸のこと

 器づくりをはじめる

 気さくな声かけと笑顔で迎えてくれたのは、東正之さん。お父様と東山窯を営んでおられます。展覧会用の作品(美術品)づくりと美濃焼の産地としての商品づくりの両輪で活躍されています。
 美濃焼の産地である多治見市。おかゆを炊く「ゆきひら」、薬土瓶、酒をいれる「徳利」など民芸的なものをつくる産地でした。お父様の時代に、そうした量産品をつくる窯元としてはじまり、東さんの時代に器づくりをはじめます。
 長男である東さん。なんとなく長男が継ぐ空気感に対して、「ちょっとだけ反抗してみた」という言葉で表現され、面白いお人柄だということを感じさせてくれました。取材する側の肩の力が少し抜けます。“ちょっとだけ反抗してみた”のは、高校ではデザインを学び、岐阜県陶磁器試験場を経て、すぐには東山窯には入らず、就職します。粘土をつくる工場で、土を売り、配達する仕事でした。

 東さん 「窯元さんや作家さんと出会ったり、作品をみているうちに、自分も何かやってみうようかとなって、家の仕事を手伝いながら、自分のことをやるっていう。それではじまったんですね。」

【美濃焼とは】
 美濃焼とは、美濃国(現在の岐阜県)の東部地域で生産されてきた陶磁器の総称。起源は、奈良時代の須恵器(すえき)からとされ、現代まで進化をし続け、現在では、日本で生産される器の半数以上が美濃焼。日本の食卓には欠かせない存在となった。特徴は、その時代に合わせて釉薬を開発、多様な技術を用いるところであり、常に進化している。現在も職人の間では模索が続いている。「特徴がない」とも言われ、見た目や質感は多種多様。時代に合った質感やデザインで生産され、生活に溶け込みやすい焼き物。代表格は、「瀬戸黒、黄瀬戸、織部、志野」の四様式がある。



 靑へのこだわり

 東さんのつくるものの特徴の一つが、「青」です。

 東さん 「研究所のときから、色は気になっていた。トルコ青とか窯変だったり。(窯変:窯の中で起こる色の変化)青はもともと好きだったんでしょうね。一番最初に惹かれてるんで、家に入るときに、こういう青どうかな?どうしたらでるの?とはじまったんかな。最初から青を追及している。」

 “青の追及”は、写真に撮る、中近東のペルシャ陶器をみにいく、自然をみるなど。そして、最近は、“透明は青に置き換えられる”と、透明感あるものを頭のなかで青に切り替えてみている。「実際の青に勝てるわけではない。思い出す青。記憶を呼び戻す青。」という言葉が印象的でした。
 25歳から、追及しはじめて30歳のころ、「発表する場を作ってみたら?」とアドバイスをいただいたことで、個展をはじめられ、現在に至っています。



 美術品を作る自分が商品をつくる意味のこと

 東さんのつくるものの特徴のもう一つが、「志野」です。
 東さんにとって、志野は、美術品ではなく、東山窯の商品づくりで使う技術。志野をはじめたのは、たまたま習いにいったところが取り組んでいたこと、また、“産地であり、地元の伝統である技術は、まわりからの評価が高いこと”、そして、“目が厳しいこと”も理由にあります。

 東さん 「青は、ちょっと違っても気にされない。志野は、ちょっとした色の違いだけで気づかれる。深さはおもしろいな、とやりだした。志野は、4日かけてゆっくり焼いてゆっくり冷ます。窯が今回こうしたかったんやろうね、という焼き方。窯との一緒の仕事になる、そういう感じ。」
 東さんからは、「青」と「志野」について、どちらにも想い入れを感じます。東さんにとって、“美術品をつくること” “器の商品をつくること” この二つについて、どういう想いで取り組まれているのかを聞いてみました。

 東さん 「美術品の作家の肩書きがありながら、普通に食卓で使ってもらえるものを作りたいな。美術品のように心に伝える器であってほしい。何か感じる器を作りたい。美術品は、見る、から入ろうとしているけど、器は、使って。料理やコーヒーなど何かと混ぜて食卓に並ぶものなので、触れるというのがある。そのつもりで作っていますね。」
 「志野」は、優しい感じ、素朴さ。「青」は、すっきりした感じ、記憶を呼び戻す青。共に、食卓の会話のきっかけになるような器づくりを心掛けているそうです。例えば、「青」は、自然のなかでも濃い青の思い出で、「あの沖縄の空青かったね」と思い出すような。また、「志野」をつくるときのイメージは、“春のイメージ”。雪が溶けて下の土が見えて春になって元気になるよ、という季節感を切り取ったような。

 東さん 「言葉にできんところをつくるのが大事なんで。文にできない奥行だったり、複雑な部分が、その表情がだせることがいいと思っていますね。」

 東さん 「気持ちとしては、美術品に時間をかけていますよ」

 展覧会やギャラリーなどで、人と直接会ってお話できるところに魅力を感じている東さん。知らない人が自分のことを知ってくれるのが素直に嬉しく、美術品はやっていたいと思うのだそう。
 “美術品で名前が売れている東さんがつくる商品の器”となると、付加価値がつく。そのため、商品の器にもそれなりのデザインを入れていく責任も生じると感じ、意識されています。

 気分転換と陶芸教室

 東さん 「美術品の作家のほうが趣味みたいなもんやん。」

 お休みの日は、何をされているんですか、という質問にこう応えてくださいました。常にヒントを探したり、気分転換をしたりして、趣味のような仕事のような日々を過ごされています。目的なくドライブをしたり、出歩いたりしながら、ぼーっと考える時間も大切な時間であり、自然のものも都会のものも必要なのだとか。
 月に6日は、多治見から1時間ほどの名古屋や岐阜で、陶芸教室を受け持っておられます。街へ出て、様々なものを見たり触れたりして刺激を受けてくるのだそう。

これからの伝統工芸のこと

 商品としての「青」は、まだはじめて数年のこと。東さんが届ける「青」として、これから発展させていきたいと語ります。「志野」については、伝統工芸。東さんの考える伝統工芸とは、どんなものでしょうか。

 東さん 「今の生活に溶け込んで、形も雰囲気も変わっていかないかんとは思っていますね。食洗器の世界になったらどうなるのか。なんでこれだけ手で洗わないかんの、と取り残されるかも。取り残されないためには、それを超える魅力が必要。伝統工芸っていうのは、今の生活の中に溶け込んでいくもの、適応するもの。“時代に合わせたことをやっていかないといけない”ほかの分野の伝統工芸の人ともそう話していますね。伝統承継ならいいけど、“伝統工芸って、ほんとに今どきなの??”って。今までの技術のまま、形状だけかえたマグカップ。使いやすいかどうか?!ただ見た目だけ変えただけで、俺たちがついていけてないんで…自分が自信もってちゃんと言えるものにならないかん。お客さんまかせじゃなく、こっちですよ、と言えるような…もしかして、昔ながらの良さをもっと膨らませたほうがいいかもしれんよね。だから大事にしよう、とか、残そうとか…」
            



 新しいものをつくっているけど、それでいいのかどうかの迷いを率直に語ってくださいました。今、まさに取り組み、挑戦していることなのだと感じます。美濃焼の特徴でもある“進化し続けている”焼き物、とはこういうことなのかと思いました。また、“伝統工芸”と名の付くものに携わる人、みなさん共通の悩みなのかもしれません。伝統工芸が、これからどんな風に私たちの暮らしに寄り添う形になっていくのか、楽しみにしていたいと思います。
 東さんのお話のなかからは、“暮らしに寄り添う器を作りたい”、という想いをひしひしと感じました。この日は、窯焼きをしながら取材に対応してくださったので、何度も焼き上がりのブザーが鳴り響き、まさに器が作られていることを身近に感じながらの取材となりました。志野のぽってりとしたカップにコーヒーを淹れてくれ、それがとても魅力ある風景となって目に焼き付いています。それとともに、東さんの暖かい人柄を感じたのでした。
            





【書いた人】
太田清美 2020年4月、名古屋から長野県上伊那郡箕輪町へ移住。
自然の近くで、季節を感じながら、山々を眺めたり、野菜づくりをしたり、 自分の暮らしのカタチを追いかけている。
風景、営み、人、文化、など一つ一つを味わい、 体感したことをいろんな人たちと共有していくことが嬉しい人。      


ご紹介商品

伝統工芸品目 【美濃焼】 青釉鉢(皿)

3,800円(税込)

伝統工芸品目 【美濃焼】 志野酒器セット

9,000円(税込)