じもともともに

木の魅力を見つけていけば続けていける

 ~ 木を愛し尊敬の念を持つ社長さんにお話を聞いてきました。 ~

【トピックス】
①50年代ブームからの衰退
②UFO花器誕生
③定休日
④技術を伝えていく


 50年代ブームからの衰退

 昭和55年に伝統的工芸品指定産地になった南木曽町。その地で、18歳から木地師として木と向き合ってきた小椋さん。昭和50年代のブームの頃は、職人が競い合う様にロクロを回し作品を作りあったそう。昔はよく売れたという茶びつ。茶びつを作るには高い技術が必要で、多い時だと1日8組を作ることを目標に競い合っていたんだとか。
 当時、昼神温泉と妻籠宿を結ぶ観光ルート沿いにあったことから、観光客で賑わい、1日観光バス30台ほどの団体がお店を訪れていました。しかし、時代は変わりプラスチック製品が普及するにしがって次第にロクロ細工への関心は減っていき、職人の半数以上が辞めていってしまいました。現在は、1日数組の観光客が来るそうで、賑わいは減りましたが、ロクロへの根強い関心を持つ人が今でもお店を訪れます。

 「木と向き合う時間が増えて本物のものづくりができる様になった」という小椋さん。
 以前は名木市場で買っていた木材も、15年ほど前から地元の木を使っています。地元の木を使うことは、買ってきた木に比べ、思い入れが違いどこの木なのかすぐに言えるほど。伐採された木や、庭木の大木など廃棄物として捨てられてしまう木が自然と小椋さんの元へ集まって来ます。「木は捨てられない。捨てられてしまう木も何か作れないか考える」と。木への愛と尊敬の気持ちがいつも小椋さんの心に宿っているのが伝わってきます。



 UFO花器誕生

 10年ほど前から似た花器は作っていました。

 ロクロは、基本的には木を抉(えぐ)って形を作っていく作業。しかし、このUFO花器は膨らんでいるのが特徴で、"膨らませる"という概念がロクロ細工の発想にはなかった画期的なものなのです。また、通常、木の虫食いや朽ち果てた部分は切り捨てられてしまいますが、この花器にとっては醍醐味になっています。人間には決して造れない自然の作り為す造形美。自然の偉大さや儚さを表現しています。


 草や野花が似合う花器を作りたいという思いから、UFO花器は作られました。
 「道に咲いている草や花が似合うんだ」と小椋さんは、道に咲く草花を生けて欲しい、と話します。
 目の前にあるUFO花器には、花が一輪。花器が放つ異彩さをその一輪が柔らかく包み込み、そんな花の優しさを花器が大胆に表現している様な、お互いを認め合っている様な絶妙なバランス。
 花を生けると聞くと、豪華絢爛な花々を想像する人も多いかもしれません。
 “花屋に行っておしゃれな花を買ってこないといけない“という先入観を私は持っていました。道端に咲く草花で良いのか、と良い意味で私の固定概念が打ち砕かれました。確かに、花屋に行けば欲しい花が手に入ったり、想像以上の花に出会えるかもしれません。しかし、道端に咲く何気ない草や花の、小さいけれど力強く生きるその姿に心惹かれる、そんな風に感じたことが誰しも一度はあるのではないでしょうか。私はそれ以来、道端の草花を見ては底知れない力強さを感じ、あの日の小椋さんの話を思い出しています。


定休日

 創業以来、初めて「定休日」を設けました。ヤマイチ小椋ロクロ工芸所は休みの日に鋭気を養い、仕事がはじまると作品へ想いを込める。「初めて休みができたことで、休むことの大切さに気付かされた」と言います。
 また、自分でそば打ちをする程、蕎麦が好きだという小椋さん。「蕎麦粉を混ぜるときの最後のひと水が命。水を加えたら素早く混ぜるんだ」と、リズミカルに手を動かし、混ぜ方を真似てみせてくれました。蕎麦の食べ歩きにも出かけるそうで、おすすめのそば店について、丁寧に教えてくれました。

技術を伝えていく

 200年から300年前にここに集落ができました。先人が切り開いたこの土地で、先祖代々受け継がれてきたロクロ細工の技術。南木曽ロクロ細工は、全ての工程を一人の職人が行います。ロクロを回している時間は全体の2割ほど。


 原木の選木から、割り止めを塗ったり乾燥させたり、と様々な工程を一人で行っていく。ほとんどを下準備に時間をかけ、その工程が最も大切だと言います。


 しかし、そのギャップから辞めていく見習いも多いのも事実。「1000年以上変わらず受け継がれてきたロクロ細工の技術をここで絶やしてはいけない。そんな伝統技術を今世へ伝えていくことの大切さ、伝えるだけでなく広めていくことが今後重要になる」と小椋さんは言います。

 「職人としての進歩は止まらない。常に新しい発見がある。もの作りする人には、そういう楽しみがある。」時代に翻弄されたり、順風満帆ではないかもしれない中で、常に前を向き進み続けている姿が印象的です。

 「職人として動けるまで働ける喜び。木の魅力を見つけていけば続けていける。」と悲観せず常に前進していこうとする小椋さん。木を愛し、南木曽ロクロ細工の技術を守り続ける職人の想いを多くの人に知って欲しい。

 静かな工房に、木の香りとロクロの回る音が心地よく、“いつまでもここいたい”と思う。日本人が忘れかけていたものを思い出せてくれる、ここは、そんな場所。

 取材時は、あいにくの雨模様。でもここは、晴れ間が差し込んだ様な暖かさと懐かしさがありました。





≪Instagram≫

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【書いた人】
まなみさん
「22年3月に東京から箕輪町に、夫・6歳と2歳の息子たちと移住。
初挑戦の畑ではきゅうりやピーマン、ナスなど大量収穫を達成。次はハーブ類も育ててみたい。
味噌、梅干し、醤油麹、塩麹など自分で作るのが好き。次は麹と醤油を自分で作れる様になるのが目標。山登りにも挑戦したいと思案中。」
     


ご紹介商品

伝統的工芸品目 【南木曽ろくろ細工】 UFO花器 No.1286

31,350円(税込)

伝統的工芸品目 【南木曽ろくろ細工】 UFO花器 No.2301

132,000円(税込)

伝統的工芸品目 【南木曽ろくろ細工】 UFO花器 No.2269

88,000円(税込)