じもともともに

竹と共にある暮らしを広める人 AMPLIO

 車を走らせていくと、中央アルプスの山々が近づいてくる。そんな地域の住宅街の一軒のお宅へ。裏のお庭へ回ると突如現れた小さな小屋。そこが、AMPLIOさんの工房です。
 1つだけある小窓から見える木には、ピンク色の花が咲いていました。庭には、いろいろな草花や木があり、鳥たちの声が聴こえています。そこにたまに遊びに来る猫。よく笑う明るい人柄のAMPIOの田中さんがそこにいるその情景に、なんと気持ちのよい場所だろう、と想いながら、ゆっくりとお話を聞かせてもらいました。竹への想いがポンポンと弾けるようなお話でした。

【トピックス】
①竹細工の道へ
②竹への想い
③「大変だけど、ひご作りは好き」
④AMPLIOさんの1年
⑤動物と暮らす
⑥これからのAMPLIOさん



 竹細工の道へ

 田中さんが子どもの頃に暮らした家の周りには、竹藪が多くあり、竹が身近のものだったそうです。高校卒業後の進路を考えたときに、伝統工芸の専門学校を見学。そこで、竹細工を見たとき、子どもの頃に、竹ひごでかざぐるまを作ろうとして、作れなかったことを思い出したそうです。「もしかしたら、あの“かざぐるま”が作れるかな」とふと想ったのが竹細工の道のはじまりなのだとか。「編んであるものに、目が惹かれた」ことも理由の一つ。
 卒業後、竹を扱う会社に就職し、機械を使用しての竹の商品づくりに数年携わります。仕事を辞め、どこか他の国に住んでみたいという想いが生まれ、手段を考えていたところ、青年海外協力隊の“竹工芸”の募集を見つけます。その行先は、南米ベネズエラ。世界遺産が多数あり、観光が盛んな土地でした。そこで、お土産品の開発に活かすための竹細工の技術を伝えはじめます。2年の任期の中、世界遺産など観光も楽しんだそうです。「赤道に近い地域で、すごく暑かった。今思えば、熱中症だったんだ」と笑って話す田中さん。大変な想いもたくさんしたと思いますが、充実していたのだろうな、と感じました。
 そんな田中さん、2年の任期を終え、日本に戻り、しばらくしてから、竹細工を自分ではじめていきます。



 竹への思い

 「今日晴れていたから、竹を干せてよかったです。狭くならなくて。」と迎えてくれた田中さん。私たちは、意味がわからず、「そうですね…??」と応えて、取材をはじめました。途中でその意味がわかります。“田中さんがご自身で、工房の屋根にのぼり、竹を干した”というのです。
 田中さんは、ときに、竹の切りだしから取り組まれるのだそうです。竹細工の工程として、とても簡潔に書くと、「切りだし→油抜き→干す→ひごづくり→編む」があります。
 この日の田中さんは、“干す”をしていたわけです。「おぉ!そうなのですね。かっこいい。」と驚きの声が出ました。竹の緑色が抜けて、黄色になるまで、ひなたで干すそうです。 「毎年生えてくれる竹は、素材としてとてもいいものだと思う。木みたいに重くないので、一人でも作業ができるんです。竹は、自然素材であり、プラスチックの見直しにもなりますよね。普段買い物するときの観点として、ゴミになっても困らないものを買いたいと思っています。自然に戻るものを使いたい。竹は、国産素材で、長持ち。繰り返し使えて、使えば使うほど、だんだんあめ色になり、味が出てくるところもよいと思います。」 と竹への想いを伝えてくださいました。



 「大変だけど、ひごづくりは好き」

   竹細工は、“竹ひご”でできていますが、竹から竹ひごになるところを想像したことがある人は少ないのではないでしょうか。今回、ひごづくりの作業風景を見せていただきました。
 専用の刃物を使い、細くしていくだけでなく、面を平らにしていきます。私たちスタッフは、「これはよいものを見せてもらいましたね!」と職人技に感動したのでした。
 お弁当箱を作るのに、約200本のひごが必要で、そのために、半日をひごづくりに費やすそうです。もくもくとひたすら、ひごをつくり続ける。その作業を「大変だけど、ひごづくりは好き」なのだそう。



 AMPLIOさんの1年

 夏は、展示会に忙しく、冬は、竹の伐採、ひごづくりに取り組まれるそうですが、毎年順調にはいかないようです。「春になってやっとエンジンがかかるんですよねぇ。なんでしょうね…寒いと動けないんですよね。」と田中さん。職人さんでもそういうことがあるのか、と思うと親近感がわいてきます。
   また、田中さんは、お住まいの近隣市町村6か所で、月に一度教室を開催されています。ほか、イベントでのワークショップをすることも。その準備なども含めるとかなり忙しいのでは、と思うのですが、田中さんにとって、教えることにも想いを持っておられるようです。 「竹のある生活を広めたい、というのはあります。身近にある素材ですが、なかなかカゴとして加工するのは難しく、時間が掛りますが、自分で作っていただくと、“愛着がわく”などの声も多く、私もうれしく思っています。また、これは初めてみてわかったことですが、輸入品の安いカゴが多い中、ひごから作っていただくことで、竹細工のお値段への理解度が高まります。ありがたい副産物だなあと感じています。」



 動物たちと暮らす

 AMPLIOさんの工房は、庭の木々の中にあります。鳥の声がたくさん聴こえてきますし、季節ごとに移ろいゆく庭の風景を楽しめそうです。取材をしていると、一匹の猫が様子をみにきました。田中さんのお宅の猫です。猫を2匹飼っておられ、その猫たちと戯れるのが癒しの時間なのだそう。田中さんは、動物がお好きで、猫のほかに、金魚とメダカも飼っていて、金魚の成長がみられるのが楽しく、餌をあげているそうです。「犬を飼うのが目標」とも話していました。昔は、ニワトリ、ヤギ、モルモット、ウサギを飼っていた経験もあるそうで、動物がお好きなのが伝わってきます。
   ほかに、田中さんの普段の様子を聞いてみると、最近は音声コンテンツをよく聞かれているそうです。「昔はラジオだったのですが、最近はポッドキャストにはまっています」と教えてくださいました。どんな内容を聞いているのでしょうね。



 これからのAMPLIOさん

 田中さんとお話をしていると、女性ならではの細やかさと共に、芯の強さを感じられます。それは、“AMPLIO”の名前からも感じられることです。「AMPLIOの意味は、スペイン語で、“広い・ゆったりした”という意味です」。田中さんが青年海外協力隊で2年過ごしたベネズエラは、スペイン語圏。ベネズエラで過ごした経験が田中さんの中に大きく残っているのだろうな、と想像できます。田中さんが帰国後、ベネズエラは経済情勢が悪化したこともあり、連絡は途絶えているのだそう。ベネズエラで撮影した写真を見せながら「どこかに行きたくなりますねぇ」と周りの空気が 重くならないよう気遣うように、明るく笑っていました。
 最近は、1年の流れができていて、充実した日々を過ごしていらっしゃる田中さんに、これからやりたいことを質問してみました。「今も、展示会でディスプレイに携わることもあるのですが、もう少し空間づくりや装飾という部分をやってみたいですね。そこまでできるかわからないけれど、できたらいいな、と想っています。」と、控えめに話す田中さんですが、きっと、確実に進んでいかれることでしょう。素敵な空間のAMPLIOさんの工房を見回しながら、そう感じたのでした。



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【書いた人】
太田清美 2020年4月、名古屋から長野県上伊那郡箕輪町へ移住。
自然の近くで、季節を感じながら、山々を眺めたり、野菜づくりをしたり、 自分の暮らしのカタチを追いかけている。
風景、営み、人、文化、など一つ一つを味わい、 体感したことをいろんな人たちと共有していくことが嬉しい人。      


ご紹介した商品

網代編み文箱(A4サイズ) 【竹工房AMPLIO】

43,340円(税込)

網代編みお弁当箱 【竹工房AMPLIO】

14,300円(税込)

麻の葉編バスケット 【竹工房AMPLIO】

18,040円(税込)