じもともともに

作品の可愛さからは想像できない人柄が魅力の表現者


 新たな一歩を踏み出す。そんなときにお邪魔してきました。
 森本さんは、大学時代から慣れ親しんだ瀬戸の土地から地元大阪へ拠点を移す準備中でした。
 やわらかい雰囲気だけど、芯が通り、一貫した想いで作品づくりをしているアーティストの心が熱く伝わってきました。瀬戸への感謝の想いと未来への期待を感じながら話を聞いてきました。

【トピックス】
🔳瀬戸と陶芸と染付の世界へ
🔳実験が好きから辿り着いた2つの技法
  ―パツィオパットと貼花―
🔳美術工芸の世界のおもしろさと豊かな暮らしの一部
🔳ホラー映画とものづくり
🔳細く永く表現を続けていきたい

 瀬戸と陶芸と染付の世界へ

 子どもの頃にアトリエに通っていたこともあり、絵を描くことが日常だった森本さん。
 美術科の高校を選び、なかでも、彫刻を専攻して学びましたが、大学へ進む頃には、陶芸の道へ進みます。食器のほうが、アートの要素を詰め込んだとしても、生活に身近なものなので、仕事にもなるのではないか、と考えてのことだったそうです。
 そうして、高校の先生に、“焼き物を学ぶなら”と勧められた芸術大学が、愛知県の瀬戸市にありました。
 大学では、染付に取り組み、その流れで瀬戸に残り、染付の作品を作っていましたが、他の作家さんとの差別化や個性を出すのに迷う日々でした。そこにコロナウィルス感染拡大の波がやってきます。
 「コロナで展示会の機会が全部なくなって、時間もできたし、新しいことやってみようと。15年くらいは焼き物をやっていて、ほとんどは染付をやっていたんですけど、もともと実験が好きで…釉薬の実験をしていたので、作品に残せないかな、と思って今のスタイルを。」



 実験が好きから辿り着いた2つの技法
  ―パツィオパットと貼花―



 森本さんのアトリエには、小さな陶器のピースがたくさんありました。すべてに違う色が塗られています。こんなに陶芸の釉薬には色があるものなのか、と驚くほどでした。
 「テストピースを作っていて。質感と色が違ったりするんです。マットだったり、透明だったり。とにかく楽しくて。染付のかたわらで、こういうことをずっとしていたんです。せっかくだったら作品に残せないかな、と思って。」
 コロナ禍で時間ができたことがよいきっかけだったのだそう。



 こうして“貼花(ちょうか)”という技法がはじまります。
 「原型になるものを粘土でつくって、そこに石こうを流して、型を作って、そこに粘土をニュニュニュとはめ込んで、ぺらっとはずして、ろくろでひいた器でペタペタと貼り付けていく。そこに釉薬を塗る。どろに絵の具を混ぜて、で、定着しやすい絵の具を作って、それで描いてるんですけど…それだったら、この釉薬の質感の違いだとか、立体にのったときのちょっと深みのある色になったり、陰影がでてきたりもするので、何かできるのかな、という…」




 “ニュニュニュ”という表現のかわいさ、作品のかわいさ、があり、お話しているだけでは、工程の多さや作業の緻密さが見えてきませんでした。(あとで制作風景を見せていただいてわかるのですが…)そこも森本さんのキャラクターであり、作品の魅力でもありそうです。




 もう一つの技法の生まれ方も実験から。
 「粘土に絵の具を混ぜたらどうなるのかな、というのが気になって。ひたすら粘土に絵の具を混ぜまくってたんですよ。アクリルとか、水彩とか、普通に焼き物に絵を描けないかな、と思って。染付だけでは私の表現したいものができないな、ということがあったんですね。他の方法ないのかな、って。」
 染付は、白い皿に大きな筆でたっぷりの絵の具を使って描くのだそうです。森本さんは、“もっと表現の幅を広げたい”と想い、この技法にたどり着きます。これなら、いろんなことを表現できると想えたそうです。




 ここで森本さんらしいエピソードがあります。知らずに辿り着いた技法は、“パツィオパット”という技法だと画廊の人に教えてもらったそうです。
 東さんのつくるものの特徴の一つが、「青」です。
 ご自身の試行錯誤の結果、“パツィオパット”の技法を見つけてしまうあたりに、とことん突き詰めるアーティスト魂を感じます。ただ、森本さんは、「実験が好き」という言葉を使い、明るい雰囲気でお話されます。しかし、実験は、きっと大変な作業で、たくさんの時間を使っているはずです。そのギャップに、また魅力を感じずにはいられませんでした。
 作品に感じる柔らかさは、釉薬自体をマットなものにすることで、ふわっとした光の反射になり、なおさら柔らかさがでます。また、昔好きだった手芸の要素を詰め込んだり、彫刻をしていた“立体造形の技術”も生かされているといいます。様々な経験や森本さんの想いが作品の形になっているのだと感じました。
 「やりたい表現に近づいた感じ」
 と森本さん。“貼花”と“パツィオパット”、この二つの技法を使いはじめたのは、まだ3年ほど。これからもっと世界を広げていくのだろうな、と想うのでした。



 美術工芸の世界のおもしろさと豊かな暮らしの一部

 森本さんは、公募展に出すような大きな作品をつくる作家さんでもあります。大きな作品を出して見せてくれながら、
 「日本伝統工芸会の東海支部展に毎年出させてもらっていて…」と、美術工芸や伝統工芸の世界への想いを教えてくださいました。
 「伝統工芸の世界、美術工芸の世界って、ただ美しいとかおもしろいとかの前に、技術の高さが評価されるというのがあって、独特の世界だなと思ったんですね。もともと彫刻やってて、技術も必要なんですけど、素材によっては修正できる。自分のがんばり次第でなんとかカバーできる部分があるんですけど、焼き物は焼いたらなんともできない。割れてでてきたらそれまでなので。それをどう乗り越えていくかが面白いし、挑戦し甲斐があるな、と思ってしまって。それも、焼き物のおもしろさだと思いましたね。その技術も含めて、面白いもの、美しいとかっていうのを競い合っている美術工芸の世界を目指したいな。」
 森本さんは、お母さまがお料理好きで、窯元さんの器を集めていて、子どものころからそうした器を使っていたそうです。そうした子どもの頃の経験も大事なことだったのだと感じていて、その影響もあり工芸の世界を大切にしているのかもしれない、とも。





ホラー映画とものづくり

 「作品づくりをしているばかりで、趣味を聞かれると困るんです…」
 と前置きして、こう続けました。
 「映画みたりとか、本読んだりとか、音楽聴いたりとかは好きなので、そういうのは制作しながらでも。本は読めないんですけど、映画観るくらいだったら。もう耳でしか聞いてないですけど。でも、よく映画みながらやってます。邦画くらいしかみれないですけどね。ホラー映画とか、怖いやつをみながら。全然作品とイメージ違いますよね。」
 驚きました。森本さんは、学生時代から、徹夜で作業することに慣れていて、夜のほうが空気が静かで集中しやすいそうです。夜、ホラー映画をみながら、この作品を生み出している…想像してみてください。衝撃と不思議さがありませんか。
 ご自身も不思議に思っている様子で、自分が買い求めるものは、もっとシンプルなものなのだそう。
 「結局、実験の結果をどう生かそうとか、そういうのもある上で作っているので。なんか不思議です。」
 ただ、少しお話を進めると、繋がるところがみえてきました。
 絵本もお好きで、酒井駒子さんの絵が好きなのだとか。
 「暗いところからほわっと出てくる、なんかホラーに通ずるかもしれませんね。きれいなだけじゃなくて、ちょっとゾッとするような。」
 森本さんは、作品を通して、そこだけ物語的な世界観が生まれるような要素を詰め込んで作っているそうです。

細く永く表現を続けていきたい

 最後に、今後の森本さんの向かう先を聞いてみました。
 「豊かな生活ってお金だけじゃなくて、ちょっといいものとか、手の込んだものと寄り添って暮らす、とかもあるかな、って。そういう誰かの生活を彩れるようなものを作っていきたいな、っていうのはずっとありますね。」
 大切にしている想いを聞かせてくださいました。そして、森本さんのもう一つ、根っこにある想いが続きます。
 「そうですね。細く永く。細くてもいいのでなんとか焼き物を続けていく。ことですかね。物を作ったりとか、何かしらの表現をする、というのはやめないでいきたいな、っていう。そういうところですね。」

 森本さんは、2022年の年末に、拠点を移しました。15年ほど暮らした瀬戸から、地元大阪へ。
 瀬戸では、やきものの産地だからこその支援や行政の方々の親身な支援があり、瀬戸に残る気持ちもあったそうです。しかし、今の時代には、場所にこだわらずとも、焼き物ができるのではないか、と考え、“永く焼き物を続けていきたい”という想いを叶える選択をしました。
 森本さんには、これからも変化をしていく一面と貫いている一面の両方を感じます。新しい環境での活動を応援すると共に、どんな作品が生まれるか、楽しみにしていたいと思います。






【書いた人】
太田清美 2020年4月、名古屋から長野県上伊那郡箕輪町へ移住。
自然の近くで、季節を感じながら、山々を眺めたり、野菜づくりをしたり、 自分の暮らしのカタチを追いかけている。
風景、営み、人、文化、など一つ一つを味わい、 体感したことをいろんな人たちと共有していくことが嬉しい人。      


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