じもともともに

想いがつなぐもの


 寒さも本格的になってきたこの日。土岐市にある大雲窯さんにお邪魔しました。川が緩やかに流れる細い道を車で走っていると、川に器を乗せたさし板が掛かっていたり陶芸に使う道具が置かれていたりと陶器の町ならではの風情を感じます。
 そうしているうちに、あっという間に工房に到着。保護犬だったという、看板犬のクラウディが元気よく迎えてくれました。茶色と黒の毛色が特徴で口元の黒い模様がチャームポイント。人懐っこくて、撫でて欲しくて何度も近づいて来てくれました。そんなクラウディが見守る中取材させていただきました。

【トピックス】
🔳陶器の町 土岐市
🔳人との出会い
🔳時間の共有
🔳想い

 陶器の町 土岐市

 先代のお父様が陶器メーカーとして創業され、多くの職人さんが分業制で働かれていました。現在は使われなくなった大きな窯が創業当時は週に3回も稼働していたほど。京都芸術短期大学を卒業し、その後専門学校で朝から晩までロクロを回してロクロ技術を学びます。

 その後はメーカーさんで勉強し、作家活動をしながら母校の大学の助手をしていました。そんな加藤三英さん(以下:加藤さん)は二代目として土岐市に戻り作陶をはじめました。昔は近くを流れる川沿いに粘土屋さんや釉薬屋さんがあり、水車を回し石を砕き細かくして原料にしていました。
 そんな土岐市ならではの光景は今では見られなくなってしまいましたが、小さい頃から土に触れていこうという活動は今でも残っています。学校などで子供たちに土に触ってもらう機会を設け、授業の一環で、恐竜や埴輪を成形してそれを職人さんが焼いてくれるという活動を、今でも地元の作り手さんを中心に行っているそうです。
 さすが陶器の町ならではの取り組みですよね。「もう辞めても良いんじゃないか」という意見もあるそうですが、地域の方々の協力で続けているそうです。
 陶器の町を守っている土岐市の方々の思いが伝わってきます。



 人との出会い

 コロナ禍の中、取引のあった飲食業との仕事もガクッと減ってしまいました。更に原料高騰という向い風の中で、自分で作ったものを自分で売ることの難しさと向き合っています。
 「昔と流通の流れも変化しているので、自ら発信したりインターネットを活用していかなければと感じている。」
 コロナ禍は、様々な影響をもたらしていますが、全てが閉ざされたわけではありません。人と人との心の繋がりは離すことは出来ません。個展やイベントで多くの人との出会いがあり、良い刺激をもたらしています。人が呼べるように、と母屋だった場所を改造して、人が集う場所や作品を展示出来る場所に改装しました。奥様の紀代子さん(以下:紀代子さん)も多肉植物の教室を開催するなど、様々な取り組みをしています。人との出会いは新しい発見や経験を与えてくれています。



 時間の共有

 昔から野球が好きで野球漬けの毎日を送っていた加藤さん。小中高と野球に打ち込み、野球で職が決まっていたほど。今では野球もやらなくなってしまいましたが、社会人と大学生の娘さんたちが、3歳から始めたサッカー生活のサポートをしていたそうです。土日はサッカーの送り迎えをしたり、試合に同行したりと今度はサッカー漬けの日々を送っていました。
 時間を見つけては毎年1回は開催している個展に向けての制作をしたり、サンプルを制作したり、と常にもの作りをしています。また取材の前日には、制作した土器を実際に使ってご飯を炊いたり、汁ものを煮たりする「土器会」を開催していたとか。割れてしまったり、欠けてしまったりする土器。ご友人と一緒にそんな時間を共有する時が何よりのリフレッシュタイムになっています。
 紀代子さんは廃棄予定の陶器を使い多肉植物のアレンジ体験教室をご友人と工房で開催しています。場の空気を一気に明るい雰囲気にしてくれる紀代子さん。工房に飾られたたくさんの多肉植物からそんな明るい人柄が伝わってきます。
 「先日松本のかえる祭りに行って来たの」と紀代子さん。一緒に多肉植物教室を開催しているご友人と長野県松本市にお出掛けされたそうです。紀代子さんの開催している多肉植物教室は多治見市が主宰する様々な体験が出来るサイト、“多治見るこみち”から確認できるのでぜひ覗いてみて下さい。



 想い

 「作家活動に必要な原土を山から掘ってきたものが倉庫にしまってある。」と加藤さん。
 毎年1回開催している個展。その個展では自身の作りたいものを追求しています。値段を考えず手間暇を惜しまずに作品に集中していく“作家としての作品”。また“需要に応じて作成する手作りのもの”と、“機械化し量産しているもの”。
 「自分は飽き性だから、この作品作りの棲み分けをしながらやっている。」
 【作家としての作品】【需要に応じて作成する手作りのもの】【機械化し量産しているもの】この三者のバランスを保ちながら作品作りをしていると加藤さん。
 その中でも「“需要に応じて作成する手作りのもの”をもっと充実させていきたい。織部、粉引き、いろんな色を使ったりいろんなことに挑戦したい。自分の中のオリジナルもプラスしていければ。」

 “作家”としての黄瀬戸と瀬戸黒を極めたいという思いも教えてくれました。
 「師匠であり人間国宝でもある陶芸家加藤孝造さんと同じことをしてはいかんので。」
 瀬戸黒は、通常、窯から真っ赤に焼けた状態で取り出し水で急冷します。

 しかし、加藤さんは水で急冷するのではなく、“籾殻”を使う技法を考案されました。窯から取り出し真っ赤に焼けた状態のものを“籾殻”に埋めて密閉させ空気を遮断します。熱である程度、籾殻が燃えるのでその時に発生する炭素が生地に入り込み黒くなるといいます。これを、元々ある炭化という技法に、加藤さんのオリジナルで「炭化黒」と名付けました。
 炭化黒で作られた器は吸い込まれるような漆黒。重厚感があり焼けた時に出来る模様に引きつけられます。

 「人と同じ物は作れない。何か自分なりにアレンジしていかないと。」
 刻々と変わる社会情勢と生活環境。そんな中、常にぶれず変わらない自分の夢。夢に向かって試行錯誤しながら進んでいく、もの作りの職人さんの強さ。
 そんな想いで作られた器や食器たちがあなたの毎日に豊かさや彩りを運んできてくれる。

 “癒し”をテーマに作られた今回の作品たち。
 「家族や友人との時間、一人で過ごす時間。人それぞれの癒しの時間が増えますように。」
 土の暖かさ、加藤さんのもの作りへの想いをこの作品からたくさん感じてもらいたいです。






【書いた人】
まなみさん
「22年3月に東京から箕輪町に、夫・6歳と2歳の息子たちと移住。
初挑戦の畑ではきゅうりやピーマン、ナスなど大量収穫を達成。次はハーブ類も育ててみたい。
味噌、梅干し、醤油麹、塩麹など自分で作るのが好き。次は麹と醤油を自分で作れる様になるのが目標。山登りにも挑戦したいと思案中。」
     


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