じもともともに

一度使うと必ず良さが伝わると思うんだ

【トピックス】
🔳きっかけ
🔳バランスを取る
🔳もの作りへの思い
🔳没頭する時間
🔳原動力

 本当にここに工房があるのだろうかという林道を少し進むとそこには「隆月窯」がありました。工房の中に入ると多くの器が。これから絵付けされる器やイベントに出す為の器などたくさんの器が静けさの中に綺麗に並べられていました。今回は、気さくなご夫婦が営むこの隆月窯でお話を伺いました。

 きっかけ

 「おうちの仕事はなんですか?」小学生の頃、先生が聞いてきた。「大きくなったらお父さんのお仕事継がなきゃね」と先生が言った言葉で、自分はこの仕事を継ぐんだなと自然と思っていたという土田育弘さん(以下、土田さん)。家では当たり前に焼き物があり、そんなご両親の背中を見てもの作りを始めました。
 隆月窯は、昭和46年に土田さんのお父さんが絵描き職人として創業されました。取材時、土田さんが器に絵を施してくれましたが、さささっ、と筆を走らせてあっという間に蟹が現れた時は、おぉ〜!と一同感動。

 隆月窯がある土岐市は岐阜県の南東部に位置します。美濃焼の産地として発展し、「陶磁器の生産量日本一」を誇る市です。「土岐市は良いまち。良いまちって人が良いんだよ。」と土田さん。まちには多くの工房があり、美濃焼を支えるまちであることがうかがえます。そして、車を走らせると下石町のゆるキャラ「とっくりとっくん」がまちの至るところに。もちろん隆月窯にも「とっくりとっくん」が。皆さんが一つになってまちを支えている素敵なまちです。



 バランスを取る

 日本が抱える大きな悩み”高齢化”はここにもあり、辞めていく仕事仲間も多いと言います。外注さんも辞めていってしまう中、他の人を探したりシルバーさんに依頼したりと試行錯誤しながら仕事をしていましたが、ここにきて新型ウィルスが感染拡大しコロナ禍に。コロナ禍が終息する事を見越して機械を導入しました。残していかなければいけない手仕事の技術と、生活するために必要な時間の部分。そのバランスを取るために機械を導入したという土田さん。
 「手仕事の技術も残していくのは大切。でも食べていく為には機械の導入が必要だった。手仕事を残す為に機械を入れたんだ。」
 機械を導入し自分の目で確認できるメリットもあり作業効率も上がったといいます。

 作業工程の中で最も緊張する瞬間は“窯出し”。焼き足りなかったり、色味が思い通りにいかなかったり、火を止めるタイミングは神経を最も使う作業。窯焼きの温度センサーも経年劣化をしていて数値を全て鵜呑みにできません。最後は自分の経験と知識と勘が焼き上がりの全てを担っています。
 「窯焼きの時は他の作業は辞めて窯の前に付きっきり。じゃないと焼き過ぎたりしちゃうんだ。」



 もの作りへの思い

 飲みやすい、使いやすい、持ちやすいは当たり前。さっき作った物より“より良い線”を描くこと、“より理想のラインに近づけるように描くこと”を意識し、流れ作業にならないことを大切にしているという土田さん。
 「使う人の喜んでいる顔をイメージしながら作る。手でする仕事は念が入ると思うんだ。怒った時、モヤモヤしている時にはその念が器に入ってしまう。誰が手に取っても良いように気持ちを込めて、もの作りをしている。」

 気持ちをリセットしたい時は席を立ち、外の景色を眺め深呼吸をするのだそう。工房の大きな窓の外には、コスモスが綺麗に咲き、こちらを見ていました。四季を感じ、メリハリをつけることで、気持ちも整いもの作りへの活力になっています。



 没頭する時間

 「最近はなかなか1日休みという日は取れないが、26年乗っているランクルに乗って林道を走り、良い土はないか探してみたり、沢の流れる場所を探してコーヒーを沸かして飲んだりするのが時々する気分転換。また断捨離した時に出てきた、昔使っていたアマチュア無線機を仕事が終わった隙間時間でいじる時間をつくっている。捨てるのが嫌でもう一度やってみることに。今は携帯で連絡を取るのが当たり前の時代だけど、ひと昔前の携帯もない時代、アンテナを自分で作り無線が遠くに飛ぶようになって遠くの人と連絡が取れた時は感動する。」
 今は相棒のランクルや無線機を触る時間がリフレッシュタイムになっていて、少しでも時間を作るようにしているとか。


 夏は外の雑草を刈るのも一苦労。仕事を少し早く切り上げて明るいうちに草刈りをして工房から見える景色を心地の良い空間に保っています。
 「ダイバーズウォッチが飾ってあるでしょ。気持ちだけは海の男や。」
 昔はヨットに乗ったり、少林寺拳法やソフトテニスもやっていたんだとか。



 原動力

 土田さんの器を使った友人が「いつもの料理が美味しくなった。調味料も材料も変えてないのに味が変わった。」と喜んでくれたというエピソードを教えてくれました。器を変えただけでいつもの料理が美味しくなるなんて、器には不思議な可能性が秘めている、そう感じました。もの作りへの情熱がここに現れ、器を手に取ってくれた人の毎日に寄り添っていく。土田さんの言うように作り手の思いが器には宿っている。この生きる器の良さを知ってもらいたいというのが土田さんの想い。

 さらに“織部”という昔からある焼き物にモダンな雰囲気をプラスし、和食器に洋皿の要素を加えるなど新しいことにも常にチャレンジしている土田さん。釉薬を3年という歳月を掛けて自ら作ったりと現状に甘んじる事なく進み続けるそのパワーはどこからくるのでしょうか。

 「まずは知ってほしい。体験した事のない事はわからないから、だからまずは知ってもらい体験してほしい。窯元巡りのイベントもその一つだし友人にマグカップを配ったり、なんとかして“きっかけ”を作っている。一度使ってもらうと、必ず良さが伝わると思うんだ。あとは新しい表現の仕方にチャレンジしている。和食器ならではの表現だけでなく、洋食器に織部を付けて、新しい表現の仕方でやりながら出来たらええな〜」

 最後の“ええな〜”の言葉からとても楽しそうなエネルギーが溢れていました。少年が初めてヨットに乗った時のような、初めてランクルに乗った時のような、楽しげで明るい声。織部の良さを、器の良さを知ってもらうために毎日器を作り続ける原動力は、器が“人生を豊かにしてくれること”を知っているから。昔から続く織部の伝統を守り続けるのはそこにあるのかもしれません。
            



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【書いた人】
まなみさん
「22年3月に東京から箕輪町に、夫・6歳と2歳の息子たちと移住。
初挑戦の畑ではきゅうりやピーマン、ナスなど大量収穫を達成。次はハーブ類も育ててみたい。
味噌、梅干し、醤油麹、塩麹など自分で作るのが好き。次は麹と醤油を自分で作れる様になるのが目標。山登りにも挑戦したいと思案中。」
     


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