じもともともに

伝統工芸の新しい形に挑む上田紬

 東の北国街道と言われる街道沿いに、小岩井紬工房さんはあります。車が一台通れるほどの細い道沿いに、風情ある佇まいの家が並びます。北国街道とは、浅間山麓、軽井沢あたりの信濃追分で中山道と分かれ、小諸、上田、長野、高田を経て直江津で北陸道に合流します。江戸時代は、佐渡の“金”を江戸に運ぶのに使われた重要な道だったようです。昔の人々がここを行き交いし、上田紬を作る小岩井紬工房さんにも立ち寄ったかと想像すると、ロマンを感じます。

【トピックス】
🔳上田紬と小岩井さん
🔳充実させていきたいワークショップ
🔳上田紬につながるYouTube
🔳ドイツでの経験は一つの指標
🔳目指すものは、地域に根差したものづくりく



 上田紬と小岩井さん

  迎えてくれたのは、小岩井紬工房の3代目、小岩井良馬さん。(以下、小岩井さん)小岩井さんは、2004年から家業である小岩井紬工房の仕事に携わるようになり、約18年。織りは、織り子さんがいるので、お願いしていて、小岩井さんは、染色、下ごしらえ(整経:たて糸づくり)を中心に取り組まれています。
  大学で東京へ出たあと、海外志向が強く、3年ドイツで暮らしていていました。その経験があったから、客観的に日本の文化をみる機会ができ、家業に目を向けることができたそうです。
 「子どもの頃から、作るのは好きで、漫画をストーリーから作ったり、ゲームを作って友達と遊んだりとか。つくるのが好きでした、何かを。」と話す小岩井さん。発想力の高さに驚きます。



 

 【上田紬とは】
 生糸に適さない繭を真綿にし、真綿からつむいだ紬糸で織られたものが紬織物。古くから養蚕業が盛んだった上田では、農家の自家用として紬が織られるようになります。上田紬の名を知らしめたのは、真田昌幸・幸村親子だと言われ、真田家ゆかりの絹織物としても知られています。真田は、関ケ原の合戦で名を馳せると、「真田も強いが上田紬も強い」と広まっていき、江戸時代には大島紬、結城紬と並んで日本三大紬と言われ、その丈夫さは、3回裏地を替えても着られるとして「三裏縞(みうらじま)」とも呼ばれたほど。丈夫さの理由は、目の細かい糸使いでしっかりと織り込むこと。また、縞・格子柄が特徴です。



 充実させていきたいワークショップ

 小岩井紬工房として、充実させていきたいと思っていることが、手織りのワークショップです。購入する「モノ消費」ではなく、体験する・時間を過ごす「コト消費」を売りにしていきたい、とワークショップを企画しています。
 2015年より、ストールを1日かけて織るワークショップが開催されています。月に1回ペースで、金曜から月曜の4日間、1日9名、全員で36名。毎回、満員御礼。
 「7~8割が県外のお客さんですね。着物は着ないけど、ものづくりしたい。そういう方が参加してくださって。1日参加すると、思い出に残るんですよ。お弁当とおやつも付くんで。上田紬の思い出として残る。」と小岩井さん。リピーターさんは25%ほどで、友人を連れてきてくれたり、口コミも多いのだそう。
 また、このワークショップは、お客さんの目的は、“手織りを体験すること”ですが、小岩井紬さんにとっては、“工房に来てもらえる、そして、知ってもらえる”という面も合わせもちます。「ワークショップは、うちの武器になるのかな。」と力が入ります。
 東京からのアクセスのよい上田。東京からは、新幹線で1時間半なので、日帰りもできます。小岩井紬工房さんまでは、上田で乗り換えて、一駅先の西上田駅から徒歩5分。北国街道を歩いて訪ねるのも楽しそうです。



 上田紬につながるYouTube

 小岩井さんは、YouTubeでの発信にも力をいれています。2019年暮れから配信がはじまると、呉服屋さんの展示会へのお誘いがあったり、YouTubeやっている人同士でコラボをする(作り手さん、呉服屋さん、和裁士さん、着付け師さん)など輪が広がり、面白さを感じているのだそう。
 また、サブチャンネルもお持ちで、そちらも気になる内容なのです。上田市のグルメ情報を主に発信しているチャンネル。上田に興味を持ってくれている人なら、上田紬にも親和性があるのでは、と考えてのこと。視聴しているのは、メインチャンネルとは別の層ということで、新たなお客さんの開拓としても期待をしているようです。



 ドイツでの経験は一つの指標

 「今もドイツでの3年間の経験は、一つの指標になっているところありますよね。」
 長く海外へ行きたかったため、留学でもなく、ワーホリでもなく、労働ビザにたどり着きます。働く先を探すなかで、日本食レストランの募集を見つけ、渡独。ドイツでの経験で感じたことを次々と語られました。
 「人生を楽しむことに重きを置いている、というか。夏休み2週間とか、長いと1ヶ月。休みをとらなきゃいけない、そういう法律もある。日本は、働くのが正義、美徳とされているところあるじゃないですか。日本のシステムって?仕事に縛られるのどうなの?って。身を削って働くことはしないですね。違うのかな、って。そういうスタイルはとらないようにしていますけど…ちゃんと働きますけどね。」続けて、
 「常にものごとを客観視できる癖がついた。それが正しい??いや、ほかにやり方あるんじゃないか、っていう風にね。海外にでると世界はそれだけではないんで。そういうところを知れたのは大きかったかな。」と、よい経験だったことが伝わってきます。
 ほかにも、ドイツに住む、ドイツ語を話すオーストリア出身の人に出会い、「自分はオーストリア人だ」と誇りを持っている場面に出会って、自分のアイデンティに気づきがあったそうです。そうした経験から、家業である上田紬へ目を向けることになったのでしょう。


 目指すものは、地域に根差したものづくり

 「地域性にこだわっている」という小岩井さん。「伝統工芸は、地域に根差した工芸品。だからこそ作れるものってあると思うので。地域にあるものを使って作るとかね。」
 今年はじめた“さくら染め”はよい例です。上田城の千本桜の剪定の木を使って染める“さくら染め”。はじまりのエピソードがあります。成人式ができなかった娘さんに着物を作ってあげたい、というご相談がありました。娘さんの名前は、“さくら”さん。桜に由来したものを、と考えていたときに、上田城の千本桜を思い出したそうです。娘さんの手元に渡る着物のことを想像して、一人感動していました。取材の日は、まだ糸を染めたところで、織りはこれから、という時期でしたが、きっと、素敵な着物が出来上がることでしょう。


 また、企業さんが使ってくださる事例も増えているのだそう。長野県内のホテルのベッドランナーに、花瓶敷に、タペストリーに、など。「地元の工芸品を使って応援してくださる事例が増えていて、ありがたい。」と小岩井さん。
 実は、これからの上田紬のことを考えて、上田紬サポーターのようなことを考えているそうで、企業さんの事例はまさに、という内容ではないでしょうか。「家業として代々、だと厳しいところもあるんで、良い形で残っていける形を模索していますね。地域に根差したあり方が生き残れる道なのかな。伝統工芸サポーターとか。地元の人が応援できるようなスタイルおもしろいんじゃないかな。企業にスポンサーになってもらうとか。地域性がでてくるんじゃないかな。上田に行くとみんな上田紬を持っている、とか、企業ではみんな上田紬のネクタイしてる、とか、店に上田紬のコースター置いてある、とか。“上田はやっぱり上田紬だね”って。そういうのが作れたら面白いのかな、って。無理なく継続していける形。やりたい人がやれる形。」と小岩井さんは語ります。また、「昔のように、上田で養蚕から糸づくりをしてみたい」という想いも話していました。


 淡々と語られるなかに、“戦略的で冷静な内容”と“熱い想いを感じる内容”が混ざり合い、小岩井さんの人柄をそのまま感じるような取材の時間でした。これから、まだまだできることが多くありそうで、期待が膨らみます。小岩井さんは、サポーターやファンづくりが上手なのだ、と気づいたときには、すでに、その第一歩を踏み出しています。もう一度、あの細い道の北国街道を歩き、ワークショップの体験に行きたい想いでいっぱいなのでした。



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【書いた人】
太田清美 2020年4月、名古屋から長野県上伊那郡箕輪町へ移住。
自然の近くで、季節を感じながら、山々を眺めたり、野菜づくりをしたり、 自分の暮らしのカタチを追いかけている。
風景、営み、人、文化、など一つ一つを味わい、 体感したことをいろんな人たちと共有していくことが嬉しい人。      


ご紹介商品

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